in the 地獄

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いつものように暮らすこと

四万十川でのラフティングで気付く、帰る家があることの良さ

地元高知県に帰省し、四万十川でラフティングを経験した、そういう話。

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8月、お盆ということもあって家族で帰省の準備を進めていたところ、実姉から連絡が入った。

「あんたら帰ってくるし、夏休みやし、せっかくやから四万十川でラフティングするつもりなんやけど、どう?」

普段我々一家は京都で毎日のように家に閉じこもり、YouTubeNetflixを見る生活を送っている。

その一報が入った時「夏休みやからラフティングでもするか!」となるアウトドア発想が実の姉ながらすごいなと思った。嫁ともそういうやりとりをした。

しかし、それはそれとして、ラフティングなんてやったことない。

何事も経験だ、人生はチャレンジだ、せっかくやからやってみようか、ということになった。

そうして、水着や浮き輪をがっつり準備して、実家のある高知県へ帰省した。

 

一応ラフティングについて説明しておく。

簡単に言うと川下り。ゴムボートに乗って急流を下る。ヒルナンデスの企画でやってそうなやつだ。

 

 登場人物が多いので、関係性とともに簡単にまとめときます。

・僕…俺。末っ子長男。

・嫁…俺の嫁

・子ども…我が子。小学生。

・姉1…僕の姉で長女。

・姪っ子1…姉1の子。小学生。

・姉2…僕の姉で次女。

・甥っ子…姉2の子。お兄ちゃん。小学生。子ども勢では一番年上。

・姪っ子2…姉2の子。妹。小学生。

・旦那…姉2の旦那。

・母…3姉弟である僕、姉1、姉2の母。還暦過ぎ。

 

今回は色々なアウトドア体験ができる施設へ「ラフティングしたいんすけど」と申し込み、ボートを借りる形を取った。ガイドさんもついてくれるので安心。

台風が通り過ぎて2日目。快晴とはいかないまでも晴れ間の見える高知県

山の中なので夏の暑さもあまり感じない。京都の方が断然暑い。

川が増水してるなら危険なので中止、ということだったが、特にその連絡もなかったの。問題ないようだ。

途中、シンプルに道を間違えつつも施設へ到着。

 

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まずは受付。ボートなどの利用料金、事故があった時のための保険料を払う。

ボートは6人乗り。我々は全員で10人なので5人2組に分かれ、そこにガイドさんが同乗する形。ボート2台分、保険料合わせて23000円ぐらい。ラフティングの相場なんて知らないので高いのか安いのかよく分からない。調べるの、意味もなく怖いから調べてない。

 

次に準備。ヘルメット、ライフジャケット、ゴム製の靴が配られる。

どの装備もけっこうタイトめで息苦しく感じたが、そのうち気にならなくなった。

眼鏡をかけている人には眼鏡バンドも貸してくれる。僕にはありがたかった。四万十川の激流で吹っ飛ばすか、雄大な自然をぼんやり眺めるかで迷っていたので。

準備が出来たらスタート地点へ移動。施設の上流にある橋へ向かう。

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到着。まずはガイドさんから注意点やボートの漕ぎ方などを教えてもらう。

川に落ちてしまった場合、まずは落ち着つくこと。そしてラッコのような体勢を取ることが大切だと言う。

ライフジャケットを着た状態でバシャバシャやると、水面付近で浮き沈みしてしまい、水を被るのだ。

「だからラッコ!ラッコのポーズで流されてください!流れがゆっくりなところで助けますから!」

再三の注意を聞いて、多分その場にいた全員がラッコのポーズのまま太平洋まで流れ着く自分を想像したと思う。

あとはボートを漕ぐパドルの使い方とか。適当に持っていると、岩にぶつけてしまったり、人に当たったりので気をつけよう、という話。

 

説明も終わっていざ出発。ちなみにこの日は我々とは別でもう1グループいた。なのでボートは計3台。ガイドさんも3人。

僕たちのグループは僕、嫁、子ども、そして姉1と姪っ子1。そしてついてくれたガイドさんはおっとりした喋り方の、ドレッド三つ編みの男性。ビジュアルの個性が大爆発。ここからはドレッドさんと呼ばせてもらおう。 

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さて僕の持っていたラフティングのイメージは、幅の狭い急流をガンガン進んでいく感じだったが、ここでは全然そんなことなかった。

というのも、四万十川は川幅が広い。もっと源流近くなら狭いんだろうけど、このラフティング体験ができるエリアは中流域。かなりの広さだった。

流れも速くない。いや多少増水しているようで、いつもよりは流れがあるとガイドさんは言っていたが、それでもそんなに、という印象。流れるプールよりはちょっと速いか?ぐらい。

ちなみに四万十川と聞いて、清流、透明な水を思い浮かべているかもしれませんが、上流域で工事かなんかしてるせいで思いっきり白濁してました。ちょっと残念。

 

ドレッドさんから行程の説明を受ける。

まずは流れの速い場所を通過、その後高さ5mぐらいの飛び込みポイントがあるのでそこに停まり、その後ゆったりとした流れのエリアで泳ぐなりなんなり。ゴールまでは1時間半ぐらい、とのこと。

 

ということで出発してすぐに急流エリア。テレビで観るラフティングってこういう感じの場所ばっかだよね、というような見た目。

うねる水、跳ねる水。

今年30歳を迎える大人でダンディーな男、僕だが、この時点で冒険心に火がついており、ワクワクがとまらねぇぜ!状態。

ドレッドさんのかけ声に合わせてパドルを漕ぎ、突撃!

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上下左右に揺れまくるゴムボート。想像以上に激しい。

前傾したかと思えば、舟先が跳ね上がること4、5回。

さながらシーソー。自分の体重と同じぐらいの人を相手にしている激しめなシーソー。

ミスチルのシーソーゲームが脳内に流れる。イエーイエーイイエェェ。

ジェットコースターの一番高いとこから落ちる瞬間のあの感じを、連続で味わうのにも似ている。

「うぉおぉおお…!」普通に声出ちゃった。ちょっと恥ずかしい。

時間で言うと通り過ぎるのに30秒もかかってなかったと思うけど、体感ではとても長く感じた。

 

ちなみにゴムボートは、もちろんだが、浮き輪素材の家庭用ではなく本格的な仕様。

足でシュコシュコするポンプで膨らませるやつじゃない、多分エアーコンプレッサーで空気注入するやつ。

乗ってみると分かるが、かなり頑丈で安定感がすごい。

なのでボートが転覆する怖さはない。踏ん張りも効く。

ボートの底に排水用の溝があり、揺れが激しい時はそこに足を挟み込みバランスを取る技もある。ドレッドさんに教えてもらったので実践した。

 

しかしボートの縁に座って急流を下るもんだから、水との距離が近い。

視点が低いのもあるだろう、スピード感がやばい。

我が子と姪っ子1はさすがに怖いと、船体でうつ伏せ状態。

どったんばったん子どもたちの体が浮いていただろう…が、自分のことでいっぱいいっぱいでそこまで見れてなかった。

 

急流エリアを抜け一安心。怖さと楽しさが入り混じる不思議な後味。

後方では別グループがわーきゃー叫ぶ。分かる。その気持ち、とてもよく分かる。

 

抜けるとゆったりとした流れが続くエリアになった。

ここに飛び込みポイントがあるそうで、一旦停泊。

5mの崖。飛び込みポイントというか崖。下はかなり深いそうで、飛び込んでも勢いでどこかにぶつかることはないらしい。

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我々一家からはうちの子、姉2、姉2の旦那が飛ぶことに。ちなみに僕は写真係。

 

うちの子は、正直言って泣き虫だ。

上から目線な話で申し訳ないが、泣くことか?ぐらいのことですぐ泣く。ババ抜きで負けて泣く。将来それで大丈夫か?と心配している。

しかしこの飛び込みでは立候補。

えらいぞ!強いぞ!我が子の成長をラフティング体験で見ることになるとは。

多分、非日常体験だからこそのやってみよう精神なんだろう。「怖い怖い」言いながらニヤニヤしていた。姉2旦那に支えられながら上へ。

 

先に飛んだのは別グループの子たち。きゃあきゃあ騒いでポンポン飛んだ。肝が座っていて素晴らしい。

続いて我が子。下を覗きこんでやはりニヤニヤしている。

そして意を決して、飛んだ。

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いや、飛んでない。「落ちた」だった。

足場を踏み切ってのジャンプではなく、するっとぬるりと水の中へ。落ちた先は崖際。めちゃくちゃヒヤヒヤした。

ガイドのおじさんも「お嬢ちゃん怖いよ~」と再三呟いていた。

当の本人はにこにこしながら上がってきた。親の心、子知らず。もう一回飛ぶ!とまた登った。

「ジャンプせえよ!ジャンプ!」

思わず下から叫んだ。子どもは頷きながら、そしてまたぬるっと落ちた。

ジャンプせえよ!

背筋が凍るというかもう胃が潰れた。

見ている分には怖かったが、子どもは満足したみたいなので、口をつぐんで褒めたたえた。

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飛び込みタイムを終え、またボートに乗り込んだ。

ここからは流れがゆっくりな場所を進んでいくので、その間ボートから降りて泳いでも良いらしい。

子どもと姪っ子1が川に入る。水深は10m近いそうだがライフジャケットを着ているので安心だ。

ボートの縁に捕まってキャッキャと遊ぶ。

 

ふと後ろを見ると、姉2一家、そして還暦過ぎた母親も全員ボートから降りて泳いでいた。母親が泳ぐ姿を見たのは何年振りだろうか。記憶にない。

それに触発され、僕も川の中へ。水は頭をつけるのに勇気がいるぐらい冷たかった。

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ただそれもすぐに慣れ、ライフジャケットに身を任せラッコスタイルで上を向く。

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とにかく穏やかな流れなので、水のハンモック状態。頭上には青い空。子どもの笑い声。完全なる平和。平穏の極み。このまま寝られるぐらい気持ち良かった。

 

ちょっと先へ進むと第2の急流ポイントへ差し掛かる。

ドレッドさんにボートへ引き上げてもらい、突入準備。

今度のは最初よりも緩やかな急流らしく、ボートの縁に座って足を外側に出してもいいそう。

子どもたち2人がそれに習い、座った状態でいざ。

 

ばっっしゃん!どっしゃああん!

最初と全然変わらなくない?さっき味わったやつじゃない?

わあきゃあ叫ぶ我々。

すると勢い余って、姪っ子1が後ろ向きにひっくり返った。

その光景はさながら後方でんぐり返し。あまりにもアクロバティックな光景。犬神家のアレみたいに両足を空中へ伸ばす。

そして爆笑に包まれるボート内。「大丈夫wwwww!?」「危ないwwww!」ネットスラングが目に見える。

 

いや普段なら「危ないからその座り方はやめとこう!」となる場面かもしれない。声を荒げて心配するかもしれない。

しかしこの雄大な自然の中。現状のおおらかな心持ち。誰一人としてそれを咎める人間はいなかった。自然ってすごい。気持ちのキャパシティが広がる。

我が子も従姉妹の所業を見てキャッキャと笑っていた、が、間を置かず自分も後方に転げた。

またもや笑いが溢れるボート内。

全員が全員、漏れなく笑顔。子どもたちはまた定位置に戻る。

そして姪っ子がまた転ぶ。今度は勢いそのまま、完全に一回転した。

実はその映像がカメラに残っていたのだが、姪っ子やうちの子の顔が映っているのでお見せするわけにはいかない。

なので僕が自宅で再現した動画を見ていただこうと思う。こういう感じだった。


ラフティング再現

こういう感じだったからしょうがないよね。

 

さあラフティング体験も中盤を過ぎ、急流を抜けてまたのんびりタイム。

今度は泳がずボートの上で景色を眺めていた。

四万十川中流域。左右は山しかない。ポツポツと民家もあるが、ほんとポツポツと。

ランドマーク的な何かはない。山!川!あとちょっと家!以上!潔い光景だ。

 

と、ここでうちの嫁さんが突然ドレッドさんに質問をした。

「その髪、どうやって洗ってるんですか?」

脈絡は皆無。本当に突然。

うちの嫁は突然人の内側に切り込む癖がある。きっかけなくそこに行ける精神力は、僕も真似をしたいと常々思っている。

しかしあまりにも唐突過ぎませんか。これまであなたとドレッドさんは一言の会話もしてませんよね。

いや…でも一つのタイミングかもしれない。

ドレッドヘアーで三つ編みで、長さは腰まである。ヒゲもしっかりと。確かに気になっていた。何年ものなのかとか。ビジュアル面での疑問が強すぎる。

 

ドレッドさんは言った。

「髪はあれですね。夕方、川で水浴びするついでにこう…」

そうして頭をかいた。

 

どう表現したらいいか迷うが、分かって欲しいこの気持ち。

それだよ!と膝を叩きたかった僕の気持ち。

例えばここでドレッドさんに「湯沸かし器が備え付けられてるバスタブで」みたいな話をされたらこんな気持ちにはならなかったろう。

夕方に川で水浴びをする…この口調、完全にお風呂のない家で生活しているようだった。

確認はしてないが、多分そうだろう。いや、そうであって欲しい。

夕方に四万十川で水浴びをする男であって欲しい。

このアウトドアな、野性味あふれる外見。おっとりした喋り方。

その上で風呂は川で水浴び。

あぶない刑事はサングラスをして拳銃片手に車の窓から身を乗り出すのだ。

飛行機のパイロットは親指を立てて「グッドラック!」と言うし、高校球児は泣きながら甲子園の砂を集めるのだ。

そんな「そうであって欲しい」が凝縮されたコメントじゃないか。最高かよ、ドレッドさん。好き。

平和な心に拍車をかける最高のコメント、自然はより一層美しく見える。

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写真映えしない僕。

 

さあそろそろ、ラフティング体験も佳境だ。

またまた急流ポイントに差し掛かる。今度は大きく左にカーブする。

前方を行くボートはこれまた、大きな叫び声を上げながら波間に消えた。

我々も気張らずに向かう。

 

前述したように、子どもたちはまた船の先に座った。

ドレッドさんが一人で舵を取る。

もう3回目で慣れたもの。「わぁ、また急流だ」ぐらいの感覚でにこやかに突っ込む。

と、ボートが岩場スレスレを回転するように抜けた。正直言って、これは真顔になる程度には怖かった。

しかしドレッドさんは「こういうもんですよ」みたいな表情だった。舵をうまく取れば船体を回転させながら障害物を避けられるのだ。経験がものを言う世界だと思った。

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そしてそのまま次の急流へ。

この時「ん、前のボートが通ったルートとは違うぞ」と思った。

左側の広いところを抜けて行った前のボート。自分たちは右側の、岩と岩が並んでいるボート分の幅しかないルートへ向かっている。

ああ、でもそうか。ドレッドさんは歴戦の勇者、アウトドアの申し子なのだ。

何もかもを四万十川とドレッドさんに任せて、ボートは突き進んだ。

 

ゴンッッ!!

 

ゴムボートとは思えない、鈍い音が響いた。

勢いそのまま、右舷が岩にぶつかったのだ。

息を飲む一同。

ただ、衝撃はすごかったが、誰一人川へ投げ出されることなくそのエリアを抜けられた。

ボートの中は沈黙。いままさに起きたことが誰も理解できていなかった。

するとドレッドさんが、たっぷり溜めて口を開いた。

 

「………今のは事故ですねぇ…」

 

事故だった。

これがラフティングでの当たり前じゃなくて良かった、とみんな思ったはずだ。

だってあの衝撃、事故だったもん。首がガクン!ってなったもん。

 

しかしというかやはりというかなんというか、その後ボート内はまたもやあ笑顔に包まれた。

怪我をした人間がいなかったこともあるだろう「ラフティングでの予想外の出来事」として認識できた。

雄大な自然の中でおおらかになった心、その指向性が発揮された瞬間である。

「事故じゃん!今の事故じゃん!」と騒ぎ立てるやつは誰もいない。

 ここは平和だ。素晴らしい場所だ。

 

「事故」という表現をしたので誤解があるかもしれませんが、安全面については問題なかったので安心してください。

衝撃的にはゴン!でしたがゴムボートなのでボイーンと跳ね返っただけでした。

慌てふためいて船内でドタバタしなければ大丈夫、放り出されることはありません。ドレッドさん的にもよくあること、ぐらいのリアクションだったし。

体験前の説明でありましたが、何かあった際はまずは落ち着くこと。これが大切。

そしてドレッドさんの言葉の発し方には謎の安心感がある。今後四万十川でラフティングをしたいならぜひとも彼を指名していただきたい。ほんとに。

 

そんなこんなでゴールに到着、最後はみんなで記念撮影。

非常に貴重な体験だったと、今思い返している。

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あとになって姉2からこう言われた。

「あんたらの『帰省』って感じ、ええよね」

曰く、半日かけてやっとこさ帰る実家の存在っていいね、ということだそうだ。

確かにな、と思った。

 

極端に言えば、実家が徒歩数分ならこういう帰省っぽさ、田舎に帰る感は出ないだろう。

特に我々が今住んでいる京都は高知県の実家周辺と比べると、どうしても都会だ。

だから実家に近づくにつれ「これこれ、この山の中」という景色の中を通ることになる。

長らく地元から離れていると分からなくなるものだ。ほんの2、3年前の話なのに。

「田舎に移住したい!」というようなテレビ番組を見て(なんだこの企画)と思っていたが、しかしちょっと分かったように思う。

実家が田舎って、良い。

自然に囲まれるって気持ちいい。

四万十川でのラフティング体験は、忘れられない夏の思い出になった。